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目標は「スパコンの民主化」を実現すること ~ハードルを大幅に下げることで利用領域拡大へ~

現在でもユーザーが限られており、多くの人々にとって「高嶺の花」であり続けているスーパー コンピューティング (スパコン)。その利用ハードルを下げることで「スパコンの民主化」を目指しているのが、2015 年 2 月に設立されたエクストリームデザイン株式会社 (以下、エクストリームデザイン) です。現在はスパコン利用に必要なノウハウをクラウド上に集約したサービス「XTREME DNA」を開発しており、2016 年末までに正式リリースする予定。その基盤には Microsoft Azure の HPC 向けインスタンスが採用されており、BizSpark Plus による支援も活用しています。今回はエクストリームデザインを創業し CEO を務める柴田 直樹 氏に、同社のビジネス概要や創業の背景、今後の展開などについてお話を伺いました。


エクストリームデザイン株式会社 CEO High Performance Cloud Architect 柴田 直樹 氏

スパコンをクラウド上で実現し利用ノウハウも機械化した
スパコン フレームワーク「XTREME DNA」を開発中

―― まず御社のビジネス概要についてお聞かせください。

柴田 当社の主力ビジネスは「XTREME DNA」という、クラウド上で実現されたスパコンを動かすためのフレームワークの提供です。ユーザーは XTREME DNA を利用することで、仮想的なスパコンを時間単位で効率よく使うことができます。現時点ではまだ開発フェーズですが、今年 (2016 年) の終わりころには正式にリリースする予定です。

―― スパコンのフレームワークというのは、具体的にどのような機能を提供するものなのですか。

柴田 大きく分けて 3 つの機能があります。第 1 は仮想マシンで構成されたスパコンをクラウド上にデプロイする機能です。Web インターフェイスだけはなく、チャットボットも実装しており、ユーザーとの会話によって最適な構成を判断し、それを自動的にクラウド上にデプロイします。第 2 は運用管理機能です。機械学習を利用することで運用管理の自動化を実現します。そして第 3 は稼働監視とそれに基づくシステムの最適化です。スパコンの各種パラメーターやログを多角的に分析してこれらをスコア化し、独自に開発した判定モデルによりその閾値を超えた場合にはリソースの追加や削減のリコメンドを行います。ここでも機械学習を活用しています。

―― 多くの読者はスパコンには馴染みがないと思うのですが、このようなフレームワークを作ることの意義は、どこにあるのでしょうか。

柴田 スパコンというのは、IT インフラという側面ではネットワークで相互接続したサーバーを中心とした至ってシンプルな構成です。しかし、そのコンピューターの持つ論理性能を極限まで引き出すため、システムやネットワーク、I/O 設計といったハードウェア面はもちろんのこと、ソフトウェアの最適化や並列化、リソースの最適配置、モニタリングまで含め、幅広い領域をパッケージ化したものがスパコンなのです。そのためこれを利用するには、リソースのデプロイや運用管理、稼働監視などに、高度なノウハウが必要になります。従来はこれらを「アーキテクト」という専門家が行っていました。しかしスパコンのアーキテクトを担当できる技術者は限られており、社外に依頼する場合でも高額なコンサルタント料が必要です。これを手軽に利用して桁違いの計算性能を皆さんに使って自社サービスの価値を高めて欲しいということです。そのお手伝いをしたいという思いがあります。

―― 具体的にどの程度のコストがかかるのですか。

柴田 たとえばスパコンを 1 台導入する場合、最低でもハードウェアの導入コストが数億円 〜 数十億円、運用に最低でも年間数百万円はかかります。さらにシステム構築〜運用時にはスパコン アーキテクトがほぼ必須で、場合によっては 1,000 万円近くのコンサルタント料が発生するケースが珍しくありません。そのためスパコンを利用できるのは、これまで大学や研究機関、一部の大企業に限られていました。XTREME DNA はこのスパコン アーキテクト ノウハウを自動化し、無人で提供できるようにします。またクラウドでスパコンを再現することで、時間単位の従量課金も実現します。これが弊社が定義するスパコンの「民主化」で、誰にでも使えるものにしようとしているのです。

次世代が育ちにくい状況にあるスパコン アーキテクトの世界
そのノウハウを残したいという願いがこの事業の原点

―― 「スパコンの民主化」というのは面白いコンセプトですね。なぜこのようなビジネスを始めようと考えたのですか。

柴田 実は私自身がスパコン アーキテクトだったからです。1998 年から 15 年間、主に外資系企業でスパコン アーキテクトをやっていました。スパコン アーキテクトの仕事は、ハードウェアから OS、ジョブ スケジューラー、アプリケーションに至るまで、幅広い知識が必要です。時にはデータセンターの設計やラック配置まで担当する事もあります。 しかし従来のスパコンは利用者が限られていたこともあり、新しい世代のアーキテクトが育ちにくい状況にあります。実際のところ、私達の年代のエンジニアが、スパコン アーキテクトのノウハウを持つ最後の世代になるのではないかという危惧も持っています。このままではスパコン アーキテクトのノウハウが失われ、スパコンの利用が先細りしていくかもしれません。そこでアーキテクトのノウハウを自動化し、どこかに残しておきたいと考えたのです。

―― アーキテクトのノウハウを低コストで利用できれば、スパコンの利用も拡大するというわけですね。


柴田
 利用のハードルを下げさえすれば、スパコンは大きな可能性をもたらす存在になります。 たとえば最近では、研究分野ではディープラーニング、ビジネスの現場に近い所では機械学習、ビッグデータ解析などで利用が広がりつつありますが、これらの実行にはやはり膨大な計算リソースが必要です。いくらユニークなアイデアやアルゴリズムを思いついたとしても、高速な処理が行えなければ、実用レベルにはなりません。また既に存在するソリューションでも、現在の数十倍の速度で動かすことができれば、既存の常識を変えてしまう可能性があります。実際、翌日仕上げが一般的だった衣類クリーニングを 3 時間仕上げにすることで、同じサービスでも処理スピードを劇的に向上させることでサービスの差別化を実現し、急成長を遂げた企業があります。スパコンをうまく活用できれば、コンピューティングの世界でも同じようなことが可能になるはずです。

―― なるほど。潜在顧客は多そうですね。

柴田 すぐにわかりやすい効果が得られるのは、製造業での各種シミュレーション (CAE 分野) の解析ユーザーだと思います。たとえば、流体解析を 1 回行うのに 10 時間かかっているのであれば、スパコンを使うことで数十分に短縮できます。以前は 1 日 1 回しか行えなかった解析が、1 日数回行えるようになるわけです。これによって、従来なら諦めていた解析も行えるようになり、設計精度も向上します。

スパコン用の仮想マシンのバリエーション追加で、「スパコン民主化」が Azure で実現可能と確信
必要な要素をすべて提供しているのはマイクロソフトだけ

―― 会社を設立したのは 2015 年 2 月ですね。それ以来ずっと開発を進めてきたのですか。

柴田 設立から 2016 年 3 月までには、主にスパコン アーキテクト作業の受託を行っていました。もちろん XTREME DNA のようなクラウド サービスの開発は当初から考えており、検証作業も進めていたのですが、実際に開発フェーズに入ったのは今年からです。4 月からは XTREME DNA の開発に専念する体制へとシフトしています。

―― 同じタイミングで第三者割当増資も発表していますね。

柴田 2015 年 3 月に 3,000 万円の第三者割当増資を実施しました。これにより現時点で 3,400 万円の資金を調達しています。これで開発に専念する体制を作ることができています。

―― さらに 2015 年 7 月には、BizSpark Plus の活用も開始しています。これはなぜですか。

柴田 Azure 上に、スパコンに不可欠な高速ネットワーク (RDMA) が構成できる IaaS である「A8」や「A9」を中心としたスパコン向けインスタンスがあるからです。検証当初 (昨年) は A8、A9 を使って検証を進めてきましたが、スパコンを実現するにはまだ、必要な要素が不足していました。スパコンの民主化が実現できると確信したのは、2015 年 9 月にマイクロソフトが GPU 搭載のインスタンス「N-Series」の将来リリースを発表してからです。「N-Series」にはスパコンに必要な要素が全て揃っています。さらに高速な CPU に特化した「H-Series」も先日発表されスパコン用インスタンスを時間課金で多く品揃えしているのは、現在マイクロソフトだけと思っています。これらの多種のインスタンスを検証できるのが BizSpark にお世話になっている理由の 1 つです。

―― スパコン実現に必要な要素とは、具体的にどのようなものですか。

柴田 スパコンのアーキテクチャはとてもシンプルで、4 つの要素で成り立っています。それは、常に最新の CPU が使えること、高速メモリーを大量に使えること、仮想マシン間を高速ネットワークで接続すること、高速なファイル I/O があることです。これに加えて最近では、GPU の実装や、並列ファイル システムを実現するミドルウェアも重要になっています。さらに並列ファイル システムはクラウドではほとんどソリューションがありませんが、Azure には「Lustre for Azure」も発表されています。これも期待大です。

―― これらすべてを揃えるのは、他社のクラウドでは不可能だと。

柴田 そうです。物理マシンを時間貸しするサービスは存在しますが、利用料金が高額であるうえ、クラウドならではの柔軟性を享受できないのです。それからスパコンの実現でもう 1 つ重要なことは、Linux が使えることです。最近の Azure が OSS (オープン ソース ソフトウェア) フレンドリーになっており、仮想マシンでも Linux 普通にが使えるようになっているのもスパコン利用者には大変良いと思います。

―― 今年 8 月には GPU 搭載の仮想マシンである「N シリーズ」のプレビューも開始させていただきました。

柴田 今後は弊社も待望していた N シリーズの検証も進めていく予定です。おそらく最終的には、N シリーズを中心に XTREME DNA を提供することになるでしょう。N シリーズはまだ正式なサービスにはなっていませんが、既にマイクロソフトとは機密保持契約を結び、細かい技術情報の提供も既に受けています。BizSpark というと Azure の無償提供に注目が集まりがちですが、このようなテクニカルエバンジェリストによる支援の存在も重要だと感じています。

XTREME DNA リリース後はスパコン利用領域拡大を推進
IoT 分野でもスパコンは重要な役割果たす存在になるはず

―― 技術情報提供以外の支援も受けていますか。

柴田 2015 年 11 月に開催されたスパコン最大の学会である「SC15」に、マイクロソフトの支援を受けて出展しました。これは当社を多くの人に知ってもらううえで、大きな役割を果たしたと思います。また開発メンバーの募集もお手伝いしていただきました。現在は 8 名の体制になっており、さらにマイクロソフトのエバンジェリストもアドバイザーの 1 人として参加していただいています。他社のスタートアップ支援はこちらから働きかけないと動いてくれないケースが多いのですが、マイクロソフトは当社の状況をよく見て、さまざまなアドバイスを行ってくれます。これほどスタートアップ支援に力を入れている会社だとは、7 ~ 8 年前には思いもしませんでした。

―― 最後に、今後のプランや展望をお教えください。

柴田 まずは XTREME DNA のリリースに向けた開発を進めていきます。正式リリースは年末を予定していますが、今年 11 月には早期評価顧客向けに基本機能の提供を開始できるようになると思います。その後は XTREME DNA によって、スパコンの利用領域拡大に取り組みたいと考えています。日本でスパコンを使っている企業利用という点では、ほとんどが製造業と金融業に限られており、その代表とも言えるのが自動車メーカーのシミュレーションです。しかしスパコンを民主化して使いやすくすれば、他の業種へも利用が拡大していくはずです。また IoT プラットフォームでは大量のセンシング データ分析 でスパコンが重要な役割を果たすことになるでしょう。IoT プラットフォームでは今後、デバイスから集められた膨大なデータを、いかにして迅速に処理できるかが問われるようになるからです。活用される分野は多岐にわたります。 当社の取り組みは、登山にたとえればまだ一合目に過ぎません。スパコンが多くの人々にとって身近な存在になるよう、前進し続けたいと思います。

―― これからの活躍を期待しています。本日はありがとうございました。

I

エクストリームデザイン株式会社
スパコンのアーキテクトを長年務めていた柴田 氏が、2015 年 2 月に設立。当初はアーキテクト業務の受託を行っていましたが、2016 年からアーキテクト業務の自動化が可能な「XTREME DNA」の開発に専念、「スパコンの民主化」を目指した取り組みを進めています。プラットフォームとしては Azure を採用し、A8、A9 といった HPC 向けのインスタンスを中心に活用。今後は N シリーズ、H シリーズを使い、2016 年末までに XTREME DNA をリリースする予定です。

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